保育利用「優先順位」の波紋







  • 読売新聞

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      埼玉県所沢市が導入した保育所利用の新しいルールに対し、反発した保護者らが「子ども・子育て支援法施行規則に違反する」などとして25日、市を提訴した。親が出産して育児休業を取った場合、それまで保育所に通っていた上の子どもは原則、退所させるというもので、待機児童の解消がねらいだ。しかし、「かえって少子化を招く」との声も上がり、波紋が広がっている。(辻阪光平、樋口郁子)
     「待望の娘を授かったのに、喜びに浸れなくなりました」。原告の一人で、同市在住の会社員女性(32)は戸惑いを隠せない。
     夫と小学1年の長男、保育所に通う1歳10か月の次男と暮らす。「女の子が欲しい」とチャレンジした第3子は期待通りの女児。予定通り8月に出産すると、新ルールでは、次男は10月末にも退園することになるという。
     女性が恐れているのは、次男の生活が激変することだ。通い始めは、泣くこともあった。が、今は午後6時過ぎに迎えに行くと、「お友達と遊び続け、保育士さんからも離れようとしない」と女性は言う。
     「保育園が楽しそうで、日々の成長も感じていた。仲良しの友達や先生と会えなくなれば、育ちに悪影響が出ないかしら……」
     次男が通い続けるために、出産後、育休を取らずに職場復帰することも考えた。しかし、空きの少ない0歳児の預け先を探すのは困難。夫の帰宅は毎日午後9時を回り、土日も急な呼び出しがある。両方の親も県外に住み、支援はあてにできない。「家のローンもあり、仕事も辞められない。結局、育休を取るしかなさそう」と、ため息をつく。
     同市が新ルールを導入したのは、保育所に入れない待機児童の解消がねらい。同市の今年4月の待機児童は約20人で、親が育休中の場合、0~2歳児は「家庭での子育てが基本」として退園させる方針を決めた。待機児は0~2歳が多いことが背景にあるとみられる。3~5歳児は継続利用できる。市は「より保育を必要としている他の児童が入園できるようになる」と話す。
     さらに、いったん退園した児童が育休明けで保育所に戻る際は、元の園に戻れるよう対応するというが、保護者らは「確約になっていない」と反発する。
     宇都宮市はおおむね半年以上育休を取る場合、原則として退園を求めている。同市の女性会社員(37)は、6年前、長男を出産した際、2歳だった長女を退園させた。「やめるとき、皆からお別れを言われて寂しそうだった。子どもには子どもの生活があるのに、親の状況次第で通えなくなるのは納得いかなかった」と振り返る。
     親が育休中の子どもの保育所利用については、これまで自治体ごとに対応がばらばらだった。4月に始まった国の「子ども・子育て支援新制度」では、保育を利用できる要件の一つに「育休取得中の上の子の継続利用」が加えられた。
     制度を検討した国の審議会で、「いったん退所すると、保護者が復職する際に、改めて保育所を探すのは負担になるうえ、第2子以降の出産をためらう要因になる」という意見が出たことが背景にある。一方で、厚生労働省は2014年9月、待機児童がいる場合について、「国の考え方を参考に各自治体で優先順位を考えること」という通知を出した。このため、同省保育課は「誰を優先するかは自治体の判断。所沢市のやり方がただちに問題とは言えない」と話す。
     少子化ジャーナリストの白河桃子とうこさんは「待機児童を解消したいという所沢市の事情も分かるが、丁寧に進めないと、親たちの無用な対立を生む。『働きながら子どもを育てることは大変だ』という印象を若い世代に広げることにもなりかねない」と指摘している。
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